とこずれ(褥瘡)を治すために

1. とこずれ治療の大原則‥何はともあれ患部の除圧

同じ体位をとり続ける結果,同じ部位が圧迫され続けて,生じるキズがとこずれです。
とこずれの予防と治療は,「1にも2にも患部の除圧,3〜4が無くて,5が局所療法」とお考え下さい。いくら局所療法で工夫を重ねても,患部の除圧を実現しないとキズは少しも治りません。

2. 教訓的な1例をご紹介します

70歳,女性。加齢による認知症と円背(背中が丸まった状態)がみられます。

(初診時)

臀部に2×1.3cmのかさぶたと径3cmの赤みを認めました(図1)。このような円背の方は仰向けでは寝られないため,私にはこのとこずれの原因がわかりませんでした。

図1(とこずれの症状)

図1(とこずれの症状)

図2(とこずれの症状)

図2(とこずれの症状)

(3か月後)

体圧分散寝具を使用し,キズの洗浄を続けたものの,10.5×4cmとタテ長のキズになってしまいました(図2)。しかし,タテ長のキズがヒントとなって,座位時に体がずれていくため臀部が圧迫されていると推測できました(図3)。ご家族およびデイサービスで通っている施設にお願いして,前に置いた机に腕を預けて,姿勢保持に努めました(図4,前方除圧と呼ばれます)。

図3

図3

図4

図4

(3.5か月後)

ご自宅でもデイサービスでも,前方除圧の姿勢が保持できていると伺いました。何と,キズは5×3.5cmと劇的に縮小しました。

(4.5か月後)

キズは無くなりました!この例では,ポケットと言って,キズの入口が小さく内部が拡がった形状だったため,ふだんはキズの表面を洗ったり入浴するだけで,外用薬は使用しませんでした。
つまり,除圧すなわち体位が不適切であるとキズは悪化するし,除圧・体位が適切となるだけでもキズは治ります。
とこずれの治療は,「何はともあれ除圧!!」です。

3. 除圧のために

すぐに出来ることは,体位を換える(体位変換)ことと体圧分散寝具の使用です。
長期的には,栄養状態をよくしたりリハビリを頑張って,活動性を高めることも重要です。

① 体位を換える(体位変換)

「仰向け ⇄ 左右30°横向き」が基本とされていますが,あくまで予防のための基本体位とお考え下さい。すでにとこずれが生じている場合は,必ずしもこれがベストではありません。例えば,臀部の真ん中にキズがある場合には,左右30°横向きだけにしたり,90°横向きだけにする場合もあります。
また,体位を換える間隔は,日中は3時間ごと,夜間は4〜6時間ごとが妥当と思われます。
体位変換の向きや間隔は個別の患者さまで異なるため,とこずれ治療に詳しい医師や看護師に相談しましょう。

② 体圧分散寝具を使用する

主に,エアマット(空気が入っている)とウレタンマット(しっかりしたスポンジのようなもの)が使われます。
材質が同じであれば,薄いマットよりも厚いマットの方が除圧効果があります(図5)。また,エアマットの方がウレタンマットよりも除圧効果に優れています。
しかし,誰にでも厚いエアマットを使えばよい訳ではありません。厚いマットでは沈み込みが大きいため,寝心地が悪く,またベッド上での移動が困難となります。
介護力(人手や腕力)が乏しい場合は,自動体位変換マット(体の向きを換えてくれるエアマット)を選択する場合もあります。
ご本人の意見も参考にして,とこずれ治療に詳しい医師や看護師に相談するのがよいでしょう。

図5

図5-1 沈み込んでも,おしりがベッドフレームには達しない。

図5

図5-2 おしりがベッドフレームに当たってしまっている。


4. とこずれの局所療法

① キズの洗浄
図6

図6

水道水または生理食塩水(医師の処方による)にて洗浄します。調味料ボトル(図6)やシャンプーボトルを使用するとよいでしょう。
消毒薬はキズの治りを妨げるため,使用しない方がよいと考えられています。

②外用薬の選択

キズ治療の基本通り,キズの色調に応じた外用薬を使用します。
外用薬の選択
黒色期:感染を予防する外用薬。
黄色期:感染を予防する薬剤または死んだ黄色組織を溶かす外用薬。
赤色期:肉を盛り上げ,皮膚ができるのを促す外用薬。

さらに,外用薬だけでは死んだ組織はなかなか取り除けないため,ハサミなどで切除する場合もあります(医師が行います)。

しかし,これまでに述べたような除圧に努めても,完全にはとこずれへの圧迫を取り除けません。そのため,正しく局所療法を行っても,ケガやヤケドで生じたキズに比べると,治りは緩やかになります。それでも,あきらめないでベストを尽くしていると,少しずつ改善の兆しを認めるものです。

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